2005-02-02

_FSFは将来のGPLに対してフリーハンドか

うーん、まだ続いていたんですか。 根拠に乏しいと言われるのは気の毒なので、 私からもちょっと支援してみよう。

FSFがGPL3に大がかりな変更を加えることは事実上不可能です。

根拠の一つはまつもとさんがすでに言及されているように、 GPL2の第9条。

9. The Free Software Foundation may publish revised and/or new versions of the General Public License from time to time. Such new versions will be similar in spirit to the present version, but may differ in detail to address new problems or concerns.

GPL3がGPL2と同様の精神を有しているかどうかは、 GPL3がどんなものになったとしても、 結局は法定で争うまで白黒は付かないでしょう。 しかし、著作権者が「not similar」だと判断したら、 GPL3の適用は認可されないと考えるべきです。 なぜなら、「similar」でないなら、 GPL2の新しいバージョンとは看做さないという判断が下るからです。

次。 GNU開発者でない人は知らないのかもしれないけれど、 FSFへの著作権譲渡は無条件に行われるわけじゃありません。 それだって、れっきとした契約行為なので、 ちゃんと契約文書を交わしています。 いろいろ根拠になることは書かれていますが、 その中でも第4条は明確です。

4. FSF agrees that all distribution of the Works, or of any work "based on the Works", or the Program as enhanced by the Works, that takes place under the control of FSF or its agents or successors, shall be on terms that explicitly and perpetually permit anyone possessing a copy of the work to which the terms apply, and possessing accurate notice of these terms, to redistribute copies of the work to anyone on the same terms. These terms shall not restrict which members of the public copies may be distributed to. These terms shall not require a member of the public to pay any royalty to FSF or to anyone else for any permitted use of the work they apply to, or to communicate with FSF or its agents or assignees in any way either when redistribution is performed or on any other occasion.

よく読めば分かると思いますが、 FSFは成果をフリーソフトウェアとし、しかも、 コピーレフトにすると約束しているわけです。

当然これを破るような行為をFSFが行うと、 この契約が無効になってしまいますので、 FSFへの著作権譲渡は取り消される事になります。 要するに、GNUソフトウェアのコントロールを失うことになります。 そうなれば必然的に勝手にライセンスを変更することはできなくなりますから、 譲渡以前の開発者が反対すれば、GPL3に移行することは絶対にできません。

大体こんなことをやったら、 FSFは損害賠償訴訟をたくさん抱えることになるでしょう。 開発者の多くはどこかの組織に所属しており、 所属組織は別の契約書によってGNUソフトウェアにおける著作権放棄を誓約しています。 もしもこの契約が不履行となれば、 自分のところの開発者が無駄に働かされていた事になるわけですよね。 これを黙って見過ごしてくれる程、世の中は甘くありません。

それから、特許の不争条項に関しては、 The Free Software Definition

The freedom to run the program, for any purpose (freedom 0).

に反する可能性があるので、 無理なんじゃないかと思うんですけどねえ。 この点については完全に私見ですが。

_sql-info.de

なかなか参考になります。 特に MySQL GotchasPostgreSQL Gotchas が面白いです。

_譲渡以前の開発者が反対すれば、GPL3に移行することは絶対にできません、の理由

舌足らずだったかもしれませんが、 すでに上で書いた通りです。

仮にFSF(またはその後継組織)が譲渡契約書に反する行為を行った場合、 譲渡契約は無効になりますから、 著作権は元の著作権者に戻る事になります。 ライセンスの変更には著作権者による許可が必要ですから、 FSFが任意に変更することはできません。

ですから、FSFに著作権譲渡が行われたGNUソフトウェアについても、 FSF以外の人(個人や法人)が著作権を持つソフトウェアと同様となります。

GPL2をGPL3で配布することに納得がいかない場合、 上記の通り、GPL2の第9条を以て、認可できないという判断が可能です。

「any later version」についてもっと言えば、 日本に限定しますが(他の国にも同様の法律はありますが、条文までは知らないので)、 民法第95条に

意思表示ハ法律行為ノ要素ニ錯誤アリタルトキハ無効トス但表意者ニ重大ナル過失アリタルトキハ表意者自ラ其無効ヲ主張スルコトヲ得ス

と規定されていますから、 著作権者の理解が十分でなかったのであれば、 この契約は無効になるのではないでしょうか。 契約無効は遡って適用されますから、 すでに公開してしまっているバージョンについても心配は無用です。

_オープンソース界の大物らがソフトウェア特許を酷評

さすがずっとビジネス界に住んでいるだけのことはあると言うか、

 Kaporも現状について懸念を示し、将来Microsoftが同社の特許ポートフォリオを使ってオープンソースソフトを攻撃するだろうと予想した。同氏は、そもそも特許を認められるべきではなかったソフトウェアが数万件も存在すると考えており、こうした問題を抱えるソフトウェア特許を大量破壊兵器にたとえてみせた。

わざと「大量破壊兵器」というマイナス・イメージ抜群の用語を引っ張り出すあたり、 うまいものだと思いました。

さて、本当はなかった「大量破壊兵器」を持った国は武力行使で潰されましたが、 本当にある「大量破壊兵器」を持った企業の行く末はいかに。

本日のツッコミ(全7件) [ツッコミを入れる]
_ kazuho (2005-02-02 20:52)

改変の公開を強制する規定がないことをもって「BSD ライセンスで配布することさえ可能」とした、私の主張は誤りでした。
また、お手元の (私が参照しているバージョンよりも新しいであろう) 譲渡契約書では、私が指摘した破産時の問題について、明確に記載されるようになっていることが分かりました。

ご指摘ありがとうございます。
後ほど、私のブログで訂正・加筆させていただきます。

しかし、この条文は、

・配布先の制限を行ってはならない
・対価の支払いを必須としてはならない
・連絡を取ることを必須としてはならない

とのみ規定しているように読めます。

奥地さん (とお呼びすればよろしいでしょうか) の、

> 譲渡以前の開発者が反対すれば、GPL3に移行することは絶対にできません

という主張の根拠はないように思えるのですが、ご意見をお伺いできれば幸いです。
あるいは、何か別の条文があればご紹介いただけますでしょうか。

_ kazuho (2005-02-02 22:19)

申し訳ありません、訂正です。

 改変の公開を強制する規定がないことをもって「BSD ライセンスで配布することさえ可能」とした

は、

 「改変の公開を強制する規定がないことをもって BSD ライセンスで配布することさえ可能」とした

の誤りです。失礼しました。

_ kazuho (2005-02-03 10:13)

やはり納得できないので、また質問させていただいていいですか?

> 仮にFSF(またはその後継組織)が譲渡契約書に反する行為を行った場合、譲渡契約は
> 無効になりますから、著作権は元の著作権者に戻る事になります。

異論ありません。

> ライセンスの変更には著作権者による許可が必要ですから、 FSFが任意に変更すること
> はできません。

譲渡契約において記されている条件 (2/2 20:52 に私がコメントしたもの3条件) の範囲内で配布条件を変更する場合、 FSF は譲渡前の著作権者の許諾を取る必要はないと思うのですが、何か別の条項があるのでしょうか?

> ですから、FSFに著作権譲渡が行われたGNUソフトウェアについても、 FSF以外の人(個
> 人や法人)が著作権を持つソフトウェアと同様となります。
>
> GPL2をGPL3で配布することに納得がいかない場合、上記の通り、GPL2の第9条を以て、
> 認可できないという判断が可能です。

GPL2 と上の3条件は同一ではないと思います。また、著作権譲渡契約において GPL2 に触れられていない限りおいて、 GPL2 の第9条を持ち出すことは出来ないのではないでしょうか。


> 「any later version」についてもっと言えば、日本に限定しますが(他の国にも同様
> の法律はありますが、条文までは知らないので)、民法第95条に
> 〜
> と規定されていますから、著作権者の理解が十分でなかったのであれば、この契約は無
> 効になるのではないでしょうか。契約無効は遡って適用されますから、すでに公開して
> しまっているバージョンについても心配は無用です。

おっしゃるような考え方は、アリだと思います。
ただ、私は、 http://kazuho.exblog.jp/1835757/ に書いたように、組織と個人の関係において、個人に損害回復の責任を求めるのは正しくないと考えています。

_ おくじ (2005-02-03 11:54)

kazuhoさんが挙げられた3条件は譲渡契約の第4条の後半部分です。前半部分を見落としておられるように思われます。

また、私が書いた文の趣旨は「FSFがGPL3で大がかりな変更を加えることは事実上不可能である」ことです。GPL3がGPL2と「similar in spirit」でなければ、GPL3を「any later version」と捉えることに対して法的に正当性が認められないばかりでなく、経営上の致命的なリスクを背負う事になります。ならば、FSFがそのような振る舞いに出る根拠は何もなくなってしまいます。あるとすれば、せいぜい「後先考えずに暴れてみたくなった」ぐらいしか思い浮かびません。いかがですか?

_ kazuho (2005-02-03 13:53)

ご回答ありがとうございます。

第4条の前半部分は、後半部分の配布条件の適用範囲について述べたものだと判断して、先のコメントには含めませんでした。で、その前半部分についてですが、規定されているのは、

明示的にかつ永久的に、全ての人に対して同一の条件で配布しなくてはならない

という点であり、この点をもって「譲渡以前の開発者が反対すれば、GPL3に移行することは絶対にできません」と主張するのは、やはり無理があるように感じられます。
#実際、たとえば glibc の原著作権者が反対したとしても、ライセンスを GPL に変更
#することは可能なんじゃないでしょうか?


> また、私が書いた文の趣旨は「FSFがGPL3で大がかりな変更を加えることは事実上不可
> 能である」ことです。GPL3がGPL2と「similar in spirit」でなければ、GPL3を「any
> later version」と捉えることに対して法的に正当性が認められないばかりでなく、経
> 営上の致命的なリスクを背負う事になります。

趣旨は理解していると思います。また、GPL2 の第9条の解釈にも異論はありません。

ですが、第9条をもって、特許の不争条項の導入が無理と言えるかどうか (そもそもの議論は不争条項に限った話ではないですが) は、私には疑問です。おくじさんと同様の判断を FSF が下してほしいとは思いますが、「the same in spirit」ならともかく「similar」では弱すぎるかと。

さらに、私の考えでは、著作権譲渡契約第4条が「譲渡以前の開発者が反対すれば、GPL3に移行することは絶対にできません」と主張していない。したがって、たとえ原著作権者が『GPL3がGPL2と「similar in spirit」』でないと感じたとしても、FSFを訴えることはできません。換言すれば、(第4条の定める範囲において) 現著作権者の意向に関係なくライセンス変更をしたとしても、FSFは経営上のリスクを全く負いません。

_ おくじ (2005-02-03 17:25)

申し訳ないですが、私には議論のすり替えのように聞こえます。LGPLの話をしたかったんですか?そうじゃないですよね。GPL2からGPL3への話題に限定したいものです。発散したくありません。

さて、第4条の定める範囲(実際には第5条なども付け加えねばなりませんが)に従うのであれば、それはまさしくGPLの精神に該当してますから、全く問題ないわけです。そこのところで納得できないような人は著作権譲渡なんかやりませんよ。著作権譲渡契約は手間も時間もかかるし、書面が必要となりますから、ろくに考えずにやる人なんて、まず居ないでしょう。

_ おくじ (2005-02-03 17:36)

で、結局kazuhoさんが本当に議論したかったのは、特許の不争条項のことだったんですか?

私はフリーソフトウェアの理念に反することなく特許の不争条項を導入するのはまず無理だと思いますよ。誰にも分け隔てなく、利用、変更、配布の自由を与えることが基本ですし、そのことは著作権譲渡契約書にも明記されています。果して、特許を使ったから利用不可なんて、矛盾せずに言えますか?どう考えても私には不可能に思えます。

ソフトウェア特許に悩まされているのは事実なので、RMSの本音はそりゃあ(そういう条項を)入れたいでしょうよ。でも現実的に無理だから悩んでいるんじゃないですかね。そんなに心配なら、今度FOSDEMで時間があったら本人に訊いてみますよ。

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